【代表登壇イベレポ】多様な価値をつなぐ『日本発のプラットフォーマー』
先日2月19日に開催された、アカデミーヒルズ主催(Business Insider Japan協力)のイベント、シリーズ「多様な価値をつなぐ『日本発のプラットフォーマー』」に、キャディ代表加藤をお招きいただきました。
浜田敬子氏のモデレーターのもと、浜野製作所の浜野代表と共にゲストスピーカーとして登壇させていただいた今回は、シリーズ第4回目となり、「日本の町工場の技術を未来へつなぐ」というテーマでお話いたしました。
当日の内容を一部抜粋し、レポートとして公開いたします!
※本イベントはオンラインで開催されました。
登壇者略歴
浜野製作所 代表取締役 浜野 慶一氏
大学卒業後、都内板橋区の精密板金加工メーカーに就職。1993年創業者・浜野嘉彦の死去に伴い、29歳で株式会社浜野製作所代表取締役に就任、現在に至る。
浜野製作所は、設立44年目。「おもてなしの心」を経営理念とし、ロボット・機械・装置の設計・開発から、多品種少量の精密板金加工、金型設計・製作、量産プレス加工、組立まで、幅広い業界業種の課題をサポート・解決している。また、電気自動車「HOKUSAI」、深海探査艇「江戸っ子1号」をはじめとする産学官連携事業や、ものづくりイノベーションを支える開発拠点「Garage Sumida」では、ベンチャー企業、大学・研究機関の開発支援を推進している。そのユニークな経営スタイルは「新たな先端都市型のものづくり」として、国内外から大きな注目を集めている。顧客への売上依存の課題に関しては、十数年前までは売上の85%を一社に依存していたが、その後事業構造改革を進めてきた。
キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎
マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社後、製造業メーカーを多方面から支援するプロジェクトをリード。特に、重工業、大型輸送機器、建設機械、医療機器、消費財を始めとする大手メーカーに対して購買・調達改革をサポートして感じた製造業の調達分野における非効率や不合理を、産業構造を変革することで抜本的に解決したいと思い、2017年11月に「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションにキャディ株式会社を創業。
【ものづくりの業界の「下請けのピラミッド構造」】
あるサプライヤーが1~2社の顧客にほとんどの売り上げを依存している状況下では、交渉力や柔軟性がなく、顧客とサプライヤーがお互いに依存し合っている関係。この状況下ではコロナの影響などでどこかが経営困難になった場合、連鎖的に経営困難に追い込まれていくリスクを内包している。流動性高く、色々な顧客と取引することで安定的に経営をし、自分たちの強みを伸ばしていくこともできる。
ただ、業界全体では新しい取引先とお付き合いする際の取引きコスト(探索、交渉、監督)が高い。キャディの提供するプラットフォームで取引コストを下げ、フラットで強みに基づいた構造をつくっていきたい。
製造業でのチャレンジとは
浜田氏:
加藤さんが製造業の課題に気づかれたのは、マッキンゼー時代の経験が影響しているのでしょうか。
加藤:
そうですね。大きな市場で、たくさんの人が深い課題を抱えていて、かつグローバルで共通性があることに取り組みたいと考えました。当時はわからなかったので、マッキンゼーで色々な業界のコンサルをしました。
製造業だけでなく医療・小売・商社と複数業界を経験した中でも、2年ほど携わっていた製造業が面白いと思いましたし、特に課題に感じたのは調達の部分でした。
浜田氏:
CTOをはじめ優秀なエンジニアの方が、創業3年でなぜそんなに集まるのでしょうか。
加藤:
私とCTOの小橋はキャディを共同創業をしており、彼は現在エンジニア40名のトップを務めています。学生の頃からの知り合いで、社会人になって私はマッキンゼー、彼はアップルに入社し、4年ほど日本とアメリカで互いに行き来しながら今後の話をして、2017年11月に創業しました。
優秀なエンジニアが採用できているのは、彼の存在が大きいと思います。グローバルで圧倒的にスキルが高い人材がいるのは、面白く、学びの多い優秀な人と一緒に働きたいというマインドを持つエンジニアを採用できる理由になっていますね。
浜田氏:
優秀な方がいると、「この人と働きたい」という人をリファラル採用できるなど、優秀なエンジニアの集団が作りやすくなりますよね。特にテクノロジー系のスタートアップ企業が成功する因子の一つにエンジニアの採用の循環がうまく回っていることはありますね。
浜野製作所は、私自身が取材したことのあるベンチャー企業複数社のプロダクトも手がけられているということを知って驚いたのですが、どの様にしてお声がかかるんですか。
浜野氏:
ご紹介が多いですね。ハードウェアの部分をそもそも誰に頼んだらいいか分からず躓くスタートアップ企業が多いんです。最初は資本提携しているリバネスという会社の社長からご紹介いただきました。そこから徐々に情報が伝播し、お声がけいただくことが増えました。お手伝いする中で色々な企業の創業のきっかけ、想いなどのお話を伺うと素晴らしく、世の中を変えてもらいたいと応援したくなります。
浜田氏:
なるほど。プロトタイプのお手伝いは、形にしていくのが難しそうですね。
浜野氏:
そうですね、アイディアの絵を書いただけの状態のものを持ってこられることもありますが、それを鵜呑みにして忠実に作るだけでは、理想のものを理想の条件で作ることはなかなかできません。なぜその材料なのかを確認したりと、図面の相談を受けるところから始め、例えばより流通性がありコストが下がる方法を提案したりします。
製造業におけるコロナ禍の影響
浜田氏:
製造業、町工場はコロナの影響が直撃したと思いますが、浜野さん、周りの方含めて実際どうですか。
浜野氏:
一業種もしくは一社依存度の高いところは売上が大幅に減少し、厳しい状況になったというお話も聞いています。一方、お取引業種が幅広い会社はリスク分散でき、業種によってはむしろ売上が伸びているところもあります。
浜田氏:
加藤さんからはコロナの影響はどの様に捉えられていらっしゃいますか。
加藤:
浜野さんのおっしゃる通りで、日本では5割以上の会社が売上の5割以上を一社に依存していると言われており、業界依存の激しい会社は厳しいところが出ています。
我々の知る中で一番売上のマイナスが大きい例は、航空系の業界を扱っている工場で95%減。逆に医療関係、半導体等伸びている業界もあります。
キャディにはこうした業界全体の平準化の機能も強くあり、伸びている業界のお客さんと厳しい業界のお客さんを繋げることによって汎用性の高い領域についてはリソースをシェアしながらwin-winの関係を築いています。
取引コストの課題解決
浜田氏:
浜野さんにお伺いしますが、ものづくりの危機、町工場が厳しいと言われている中で、キャディが具体的な課題として取引コスト(社長の相見積もりの業務等)を挙げられていた点についてはどう思われますか。
浜野氏:
強く同意しますね。実は私自身、丸一日見積もり業務に追われてることも。一つの製品でも、ロット数によって変わるのでそれだけで5-10パターンあったりします。
顧客も相見積もりを取らないと上司の決済が取れないという理由で、形だけ相見積もりを作成したり、目に見えない所で無駄なコストが生まれる。
この様に、取引コストについては皆さん何となくなんとかしたいと思っていても、なかなか行動に移せていなかったという点。キャディさんがこれを実際に行動に移したということは革命的です。
浜田氏:
取引コストの課題は今回初めて知ったのですが、かなり深い問題ですね。
浜野氏:
はい。また、取引コストにおける品質の擦り合せに関しては、メーカーサイドの求める精度によってコストが変わってきますが、これが明確にならないとトータルのコストは減らしにくい。メーカーサイドも、ものづくりの考え方や調達方法を見直していかなくてはならないと感じています。
加藤:
まさにおっしゃる通り。求める精度によってはコストが10倍違うことも。しかしそれが明確になっていないと、サプライヤー側はバッファーを持たせ、不必要にコストが上がることがよくあります。
図面はものづくりにおけるコミュニケーションツールで、本来は品質の擦り合せが正確にできることが理想です。例えば「傷なきこと」といっても捉え方はそれぞれで、これを定量的にグレードで定義するなどしていきます。
キャディはこの翻訳機能を持っており、新しいサプライヤーが作っても同じになる様、曖昧な部分を客観データに変換することに力を入れています。
浜田氏:
自動化するまでには定義の確認のため、一社一社にヒアリングを重ねてデータ化していく必要がありますよね。
加藤:
はい。最初はデータになっていないので、アナログで人間が擦り合せています。なぜこれまでデータ化されていなかったかと言うと、図面になくても町工場が行間、余白を読みながら忖度をしていいものを作っているからなんです。
それが日本の製造業の強さであり、逆に図面の不完全さは弱さでもあります。海外では基本的には図面通りにしか作りませんし、新規取引する際も図面の不完全さが取引コストを引き上げる要因になります。
日本のものづくりのこれから
浜田氏:
事業承継の問題、高齢化の問題もあると思いますが、ものづくりの現場にこれからどの様に人材を呼び込もうと考えていらっしゃいますか。
浜野氏:
弊社ではインターンシップをして新卒の方に入っていただくことが多いですね。理念、仕事、文化、雰囲気を知った上で入社してくれています。図面に書かれていなくても情報を汲み取りより良く仕上げようという「おもてなしの心」は、コスト面では弱いところでもありますが、日本の製造業の強みであるとも思っており、弊社でも大切にしています。
浜田氏:
ありがとうございます。加藤さんは、キャディを中心に、ものづくりは変わっていくという予感はしていますか?課題が大きいだけに挑戦しがいはあると思いますが。
加藤:
そうですね。難しい点は、メーカー側は今まで図面の行間を読んで作ってもらっていたのため、そもそも図面に何が足りていないのか、わからない点です。キャディとしては品質、コストを合わせやすくするために泥臭く図面に書いていただくように伝える、翻訳することをパッケージ化するなどし、進めていきたいと思っています。
質疑応答の内容を一部抜粋
※ここからは、視聴者からの質問に対する回答内容を一部紹介させていただきます。
質問① 日本の製造業が競争力を持っていくにはどんな人材が必要ですか。
浜野氏:
技術面ももちろんありますが、そもそもものづくりに対する心構えや情熱はこれからAI、IT化が進んでも変えられない価値だとは思っています。
加藤:
私は経営の視点も大事だと思っています。1~2社に案件を依存している会社は先の話の通り、得意領域にフォーカスできなかったり、経営的なリスクを孕んでいます。技術力、実力のある会社はどの市場でどんな武器で戦っていくのかという戦略を立てることでよりポテンシャルを開放することができると思っています。
質問② 中小の製造業において競争力のある日本ならではのものづくりとは何でしょうか。
浜野氏:
技術力もありますが、ものづくりに誠実な国民性もあると思います。町工場の方たちとお付き合いをしていると、真面目でQCD(品質、費用、納期)の約束を守ろうという気持ちが強い。そういった部分が日本のものづくりの最大の強さなのかもしれません。
加藤:
私は2つあると思っています。1つ目は何が抜けているかを読み取る力である「行間認識力で、もう1つは「絶妙な技術力」です。他の誰にも作れないというものではないものの、一定の高さの技術力があることです。この2つが掛け算で、図面に記されていなくてもある程度求められていることがわかり、それがきちんと実現できる技術力があるという点は日本ならではのものづくりの強さだと思います。
アンケートのご回答も、一部ご紹介!
・「二社とも現場の苦労が伝わる話をきけた。特にキャディはプラットフォーマーの印象が強かったが、泥臭くもやる事業会社の面を感じられた」
・「製造業の現場の現状で活動されておられる方々の登壇だったのでとても現実的だった」
・「日本の中小製造業の今後の在り方のヒントを得ることができた」
さいごに
それぞれのお立場で、日本の製造業のポテンシャルについて議論を進めていただきましたが、共通している点も多かったように思います。質問やアンケート回答含め、すべてご紹介できませんでしたが、少しでもお伝えできることがあれば嬉しいです!
集合写真(^^)